(1)呼吸について 
人間の身体と心は別々のものではないということを東洋では「身心一如」と表現します。この「身心一如」の要になるのが呼吸です。呼吸に、人間の身体の変化や心の変化がすぐそのまま現れてくることは、心理学や生理学の領域ではすでに証明されていることです。例えば、怒ると息が荒くなり乱れてくる。また、不安や緊張で胸が締め付けられそうなとき、ゆっくり深く呼吸すると、気持ちが落ち着いてきます。
このように、呼吸は人間の精神状態と最も直接的に関わっています。その上、呼吸は身体機能としては自律(自律神経支配)していながらも、他方では意識的に調整できるのです。例えば、心臓の鼓動は寝ているときも、意識を失ったときでも、自律的に行われ、自分の意志で勝手に止めたり、早さを変えることは普通では出来ません。しかし、呼吸は、ある程度自分の意志で調整できます。呼吸は、人間の生命活動になくてはならない生理機能であり、自動的に行われていると同時に、人間の主体性とも最も深く関わり合っています。従って、人間は呼吸によって、具体的に自分の身体と心を整える工夫が出来るのです。極論すれば、呼吸の仕方次第で心のあり方を変えることが出来ると言えます。それは意識的に呼吸を調整することによって、逆に自律神経を調整し、そのことにより情緒の平衡を促し、精神の調和をもたらそうとすることにより実現できると考えるわけです。
ラジャヨガの一部門であるハタヨガでは、呼吸のコントロール(プラナマヤ呼吸法)の実修によって、心は一点に集約し、集中と瞑想の力を向上させようとします。
ヨガの世界でも調身、調息、調心という過程があります。
{アサナ=調身、プラナマヤ=調息、プラティヤハラ(内観)・ダラナ(集中法)・ディヤナ(瞑想)・サマージ(最高次の超意識状態)=調心}
ヨギは人生を年数ではなく呼吸数で数えると言われるくらい、呼吸は重要なのです。
(2)呼吸法 
ここでは、いわゆる丹田呼吸と呼ばれる呼吸法を紹介いたします。単純に腹式呼吸と考えていただいてもかまいません。
普段、私たちの生活は、体の中心が定まらず、頭脳を中心にして生活していることが多いようです。心身の中心が分裂しているわけですから、見た目に安定性がないばかりでなく、精神的にも落ち着きに欠けるわけです。しかし、体の重心が腰に据わってくると、自然に体全体の中心が現れてきます。これがいわゆる「臍下丹田」と呼ばれる中心です。
解剖学的に人体の重心は正常立位姿勢でほぼ第2仙椎の少し前方の重心線上に位置するとされています。丹田は丁度その当たりに相当するわけですが、ただし丹田は定型的な場所として捉えるものではなく、正しい姿勢(調身)になったときに現れてくる中心だと考えてください。
A)呼吸のための姿勢
先ず、「調身」の座り方で座ります。肩と首の緊張を解き、力を抜いて腰椎を立て、下腹を突き出し、呼吸を整えながら背骨を真っ直ぐ(生理的湾曲)にします。顎を引き、胸は反り返らないようにし、尾骨を中心に前後左右に体を揺り動かしてください。
丁度、揺れている振り子がやがて中心でぴたりと止まるように、体の揺れを自然に止め、体の中心を決めます。丁度、頭頂と両膝と尾骨で三角錐が出来るような姿勢になります。
体の重心が腰に据わってくると、自然に体全体の中心が現れてきます。それが丹田です。この丹田は先ほども説明しましたように、心身が調和した姿になったときに現れます。
丹田に心身の重心が定まると、座りがよくなり安定してきます。すると、上体は柔らかく、上から一本の糸で吊られているように腰の上に乗ります。こうして体の中に頭の先から丹田に至る中心棒(垂直軸)が出てくると、生活の中にも中心棒が現れてきます。なぜならこの中心棒は、体のみならず、心の中心棒でもあるからです。
B)呼 吸
上下の唇を軽く合わせ、舌の先を上顎に軽くつけます。そして肛門を軽く意識的にすぼめます(外肛門括約筋を少し緊張させる)。人体の前後正中線上には任脈と督脈と呼ばれる経絡がありますが、この二つの経絡の気の流れを交流させて、体全体の気の流れを良くするためにこのような事を行います。
普通「深呼吸」というと、先ず息を吸うことを連想しますが、本来は字が示しているように、息を呼き切るところから始まります。下腹を絞るようにゆっくりと、息を呼き出します。
ある程度呼き切ってしまうと、空っぽのスポイトに水がスッと吸い込まれるように、新しい息が腹にストンと入るようになります。この自然のリズムにのって、水泳の息継ぎの時のように大きく、しかも静かにゆっくりと息を吸います。
吸った息はすぐに呼かずに、唇をキリッと結び、軽く踏ん張って下腹に留めます。そして、苦しくならない程度に、初めと同じようにゆったりと長く呼き出していきます。
このとき、息を呼くときも吸うときも、無理のないように行うことが肝心です。あくまでも、呼吸を整え、本来の自然のリズムを呼び覚ますことが目的ですから、苦しい呼吸をして、かえって呼吸が乱れてしまわないように気をつけてください。
呼吸の要領は「呼息を長く、吸息を短く」です。
深く安定した呼吸が出来るようになると、下半身がますます安定し、丹田が充実してきて、体が次第に温まってきます。
例えば、砂浜に波が打ち寄せては引いていきます。このような自然のリズムに合わせて、息を呼き出し、吸い込んでいきます。自分なりのリズムがつかめたら、今度は呼く息を長くするように意識しながら、呼吸を調整してください。すると、体中の細胞が生き生きしてきて、エネルギーが燃焼しているように、体中が次第に温かくなってきます。生命感に溢れ、気力が満ちてきます。このようなことを体験してみてください。
C)気力を養う
呼吸を調整し、分離してしまった身と心を、本来のあり方へと統合する基になるのが「気力」です。「気」に関する説明は省略いたします。(気に関する説明をすると、気功の世界へと入ってしまいます)
「気力」は、呼吸を深くしたときに出てくる生命力であり、この気力によって身と心をまとめていくのです。深く長い呼吸をしていると、この気力が養われ、目先の小さな事に振り回されないようになり、長い目で道を見極めて行けるようになると思います。
気力を養っていくことが調息つまり丹田呼吸の大きな目的であるわけです。 |